法話:お鈴の音と破闇(はあん)

お鈴の音と破闇(はあん)
正福寺 釋 元雄(成瀬元)

平成25年の12月、私は、あるお宅にて亡くなったおじいさんの忌明け法要を勤めた。7人の身内の方々が出席され、私をいれて8人であった。いつものように最後に正信偈を皆と唱和し、終了したが、ちょうど年末でもあり、来年のカレンダーを持参した。そのカレンダーの法語を1ページずつめくりながら読んでみえる方があった。

場所をかえて食事になった時にカレンダーを読んでみえた方が「今日の法事で一番自分の心に響いたのはお鈴(りん)の音(ね)だった」と私に言われた。その方は、40歳くらいの男の孫さんであった。聞けば大手の広告会社に勤め、化粧品会社と自動車会社の広告を担当しているとのことであった。派手な世界に身をおき、日々の生活から逃れたいとのこと。その生活のなかでお鈴の音が心に響いたようであった。私はお鈴の音の話を聞き、なるほどと思った。お鈴の音は、迷いの闇を破る音であると以前より聞きおよんでいたからだ。

お経をよむ時にお鈴を2回打つが、迷いの闇を破る意味が象徴されている。私たちの日常の迷いは五欲である。五欲とは、食欲、睡眠欲、財産欲、名誉欲、色欲である。その五欲に引きずり回されて生きているのが我が身であるが、その事に気付くことは、なかなか困難である。その気付きが深まったことが迷いの闇を破った証であり、迷いを自覚せしめられたことが信心なのである。自分が欲望のために迷っていることを自覚させられる場が現代社会では喪失されてしまっている。毎日の勤行や法事、仏事が迷いを破る場として自身の生活の中に気付かされていくことが大切である。人間の心には迷いの闇を破りたいという願いがあることを忌明け法要にみえたお孫さんから私自身が教えられた。