法話:龍樹菩薩・天親菩薩
龍樹菩薩・天親菩薩 眺景寺 釋 竜哉(松平竜哉) |
朝晩お勤めをさせていただいております『正信念仏偈』は親鸞聖人が阿弥陀如来の願いと呼びかけを正しくいただく為にお作りになられた漢詩です。その前半には阿弥陀如来やお釈迦様、更に後半には印度・中国・日本のあわせて七人の高僧のお名前と業績が書かれています。
今回は特に印度の龍樹菩薩と天親菩薩という二人の高僧にまつわるお話を取り上げさせていただきます。
まず、龍樹菩薩です。龍樹菩薩のエピソードとしていろいろな説が伝えられています。その中で注目したいのは、出家される前は大泥棒だったという説です。ある時、どうしても捕まえられなかった神出鬼没の大泥棒がついに捕まりました。非常に頭の回転がよい人物だった為、殺してしまうには惜しく何とか改心させて当時衰退していた仏教を再び興すようにという条件で命を救われ、大泥棒はやがて龍樹菩薩となられたという話だそうです。
つぎに、天親菩薩です。天親菩薩には無著菩薩というお兄さんがいました。天親菩薩は当初、苦しみの中にあるすべての人を救いたいという大乗の教えに批判的でしたが、兄からの戒めにより、それまでの自分の態度を一変させたそうです。「お兄様のすすめる教えを批判していた舌を切り落とします」と語った天親菩薩に対して、無著菩薩は「その舌をもって私が語って聞かせた教えを広めなさい」と答えられたと聞いています。またある記録によりますと、天親菩薩はその時に自分の耳を削ぎ落としてご自身の非を詫びたという話も伝えられています。
親鸞聖人の著書『顕浄土真実教行証文類』(略して『教行信証』)には社会悪と念仏批判に対しての経文などを引く箇所があります。そこは自身の悪心を悔い改め仏様のような善き心を起こせば救われるということを説明されたものです。
他に道綽禅師のエピソードも読ませていただくと、お念仏の教えを正しく受け継いでくださった七人の高僧がたということだけではなく、ひとりひとりを凡夫の代表者としても注目すべきなのかもしれません。そして、お念仏は日頃仏様の教えに背を向け悪事を好む私自身に向けて人としての正しい生き方をすすめる為であったことを知らされます。