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<02>仏の弟子たち(対告衆)

仏説無量寿経巻上
曹魏天竺三蔵康僧鎧訳す

我聞きたまえき  かくのごとき。

一時、仏  王舎城耆闍崛山の中に住したまいき。大比丘衆、万二千人と倶なりき。

一切の大聖、神通すでに達せりき。

その名をば、尊者了本際・尊者正願・尊者正語・尊者大号・尊者仁賢・尊者離垢・尊者名聞・尊者善実・尊者具足・尊者牛王・尊者優楼頻螺迦葉・尊者伽耶迦葉・尊者那提迦葉・尊者摩訶迦葉・尊者舎利弗・尊者大目けん連・尊者劫賓那・尊者大住・尊者大浄志・尊者摩訶周那・尊者満願子・尊者離障・尊者流潅・尊者堅伏・尊者面王・尊者異乗・尊者仁性・尊者嘉楽・尊者善来・尊者羅云・尊者阿難と曰いき。

みな、かくのごとき上首たる者なり。

語句の説明

曹魏(そうぎ) 曹操の建てた魏という国。首都は洛陽。220〜265年。

天竺(てんじく) インドの古称

三蔵(さんぞう)

  1. 仏教聖典の総称。釈尊の教説を集めた経蔵、釈尊が制定された生活規則を集めた律蔵、教説を組織体系づけて論述した論蔵をいう。
  2. 経・律・論の三蔵に通じ、経典の翻訳に従事する僧のこと。[ここでの意味]
  3. 声聞蔵・縁覚蔵・菩薩蔵のこと。三乗のことをいう。
  4. 浄土三部経に説く三種の法門。<1>福智蔵<2>福徳蔵<3>功徳蔵

康僧鎧(こうそうがい) 三国時代の訳経僧。インドの僧と伝えるが、康の姓より、康居(現在の中央アジアのカザフ、ウズベク両共和国内にあった)の人とみられる。嘉平四年(252)前後に洛陽に来て白馬寺に住し、『大経』二巻等を訳出したといわれる。

我聞如是一時仏住王舎城耆闍崛山中与大比丘衆万二千人倶... 「我」とは阿難のこと。「我聞」を聞成就、「如是」を信成就、「一時」を時成就、「仏」を主成就、「王舎城耆闍崛山中」を処成就、以下「一時来会」(6頁13行)までを衆成就とし、この信・聞・時・主・処・衆の六条件が備わって釈尊の説法が開始されるから、古来これを六事成就と呼ぶ。

仏(ぶつ) 梵語ブッダ(buddha)のなまりの音写、覚者と漢訳し、「ほとけ」と和訳する。自ら真理をさとり、他をさとらしめ、さとりのはたらきが完全に窮まり満ちた者のこと。

王舎城(おうしゃじょう) 梵名ラージャグリハの漢訳。釈尊在世の頃の中インドにあったマガダ国の首都の名。紀元前六世紀ごろ頻婆娑羅王が築き、韋提希夫人やその子阿闍世王などが登場した都。釈尊説法の中心地で『大経』『法華経』等がこの郊外の耆闍崛山で説かれた。現在のラージギルにあたる。

耆闍崛山(ぎしゃくっせん) 梵語グリドラクータの音写。霊鷲山・霊山などと漢訳する。中インドのマガダ国の首都王舎城(現在のラージギル付近)の東北にあり、釈尊が『大経』や『法華経』を説かれた山として有名。

大比丘の衆 大いなる比丘(出家して具足戒を受けた男性)の集まり。後に列挙する菩薩衆に対すれば声聞衆、すなわち仏弟子である。

六神通(ろくじんずう) 六通ともいう。すぐれた智慧に基礎づけられた自由自在な活動能力。

  1. 神足通。欲する所に自由に現れることができる能力。
  2. 天眼通。人人の未来を予知する能力。
  3. 天耳通。世間一切の苦楽の言葉、遠近の一切の音を聞くことができる能力。
  4. 他心通。他人の考えていることを知る能力。
  5. 宿命通。自己や他人の過去のありさまを知る能力。
  6. 漏尽通。煩悩を滅尽させる智慧。六通のうち前の五は凡夫にも得られるが、第六の漏尽通は聖者のみが得るといわれる。

了本際、正願、正語、大号、仁賢 以上5人は、釈尊初転法輪の相手であり、釈尊に次いで悟った。

名聞 耶舎(ヤシャス)のこと。長者の息子で、父母の反対を説き伏せ出、五比丘についで出家した。

離垢、善実、具足、牛王 以上四人は、耶舎の友人で、彼にすすめられて出家した。

優楼頻螺迦葉 ウルヴィラー・カーシャパ。優楼頻螺とは尼連禅河畔の村の地名。三迦葉の長兄でもと事火外道(火を尊び、これに供養して福を求める宗教者の一派)であったが、五百人の弟子と共に釈尊に帰依した。

伽耶迦葉 ガヤー・カーシャパ。三迦葉の末弟で、二人の兄が釈尊に帰依したのを見て、二百人の弟子とともに仏弟子となる。

那提迦葉 ナディー・カーシャパ。三迦葉の次兄で、長兄が釈尊に帰依したのをみて、三百人の弟子とともに仏弟子となる。

摩訶迦葉 マハー・カーシャパ。大迦葉ともいう。釈尊十大弟子の一人。衣・食・住に対する執着を払い捨て修行に専心し、頭陀第一と称された。釈尊入滅後教団の統率者として、第一結集(経典編集会議)を行ったと伝えられる。

舎利弗 シャーリプトラ。釈尊十大弟子の一人。智慧第一と称された。王舎城外のバラモンの子に生れ、六師外道の一人であるサンジャヤの弟子となったが、釈尊成道後まもなく大目けん連と共に釈尊に帰依した。釈尊に先だって寂したといわれる。

大目けん連 マハー・マウドゥガルヤーヤナ。摩訶目けん連また略して目連ともいう。釈尊十大弟子の一人。神通第一と称された。舎利弗と親交があり、ともに六師外道の一人であるサンジャヤに従っていたが、後に釈尊に帰依して仏弟子となった。王舎城行乞中に仏教教団を嫉む執杖バラモンによって殺害された。

大住 マハー・カウシュティルヤ。舎利弗の伯父。問答第一。

大浄志 マハー・カートゥヤーヤナ。釈尊十大弟子の一人。迦旃延。もと、仏陀の出現を予言した仙人アシタの弟子。アシタのすすめで釈尊の弟子になった。論議第一。ブッダは「カートゥヤーヤナへの教え」において、有無の中道を説いた。

摩訶周那 マハー・チュンダ。舎利弗の弟。

満願子 プールナ。釈尊十大弟子の一人。富楼那。説法第一。

離障 アヌルッダ。釈尊十大弟子の一人。阿那律。天眼第一。釈尊の従弟で、ある時説法中に居眠りをしていたのを叱責され、奮起して不眠の誓いを立て、ついに失明したが天眼を得た。

流灌 レーヴァタ。離婆多。

面王 モガラージャ。粗衣第一。

嘉楽 ナンダ。難陀。釈尊の異母弟。出家後も美しい妻を忘れられずに、たびたび諌められた。

羅云 ラーフラ。釈尊十大弟子の一人。羅ごう羅。釈尊の実子。密行第一

阿難 阿難陀(アーナンダ)の略。釈尊十大弟子の一人で、釈尊の従弟にあたる。釈尊入滅までの二十余年間常随して説法を聞き、多聞第一といわれる。第一回結集(聖典編集会議)の際には選ばれて釈尊の説かれた教法を誦出した。

劫賓那、堅伏、異乗、仁性、善来 経歴・事績不明

上首(じょうしゅ) 教団の指導的役割を果たす人物。

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